青いペンケース

——————————————登場人物–

菊田 (キクタ) (高2)
島 (シマ) (高2)
堀川 (ホリカワ) (高2)
佐々木 (ササキ) (高2)
大林 (オオバヤシ) (高2)

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桜ヶ丘女子 (サクラガオカジョシ)
聖東学院 (セイトウガクイン)
霧島鮮魚店 (キリシマセンギョテン)
綾 (アヤ) (高1)
渡辺 (ワタナベ) (高2)

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○教室・朝 (月曜日)

菊田 (高2)、島 (高2)、隣同士の席で座っている。

菊田 ペンケースを机の上に置く。

「あれ?あの青いペンケースは?」

菊田 「失くした」

「えー?先週自慢してたばっかなのに?」

菊田 「別に自慢なんかしてないよ」

「してた!してた!」

菊田 「ペンケース自慢してどうするんだよ」

「だから驚いたよ、ペンケース自慢するヤツいるんだってね」

菊田 「・・・オマエさ、なんかムカつく」

「こっちもだよ」

菊田 「だったら他行けよ。俺のとこばっか来るじゃん」

「だって僕の机ここなんだからさ」

菊田 「トイレまで一緒についてくるじゃん」

「休み時間が一緒なんだから仕方ないじゃん」

菊田 「・・・オマエさ、やっぱむかつく」

堀川 (高2)、教室に入ってくる。

堀川 「なあ、知ってる?」

菊田 「知らねえ」

堀川 「まだ言ってないよ」

菊田 「・・・つまんね」

「今日もさ、菊田はこんな感じなんだよ」

菊田 「だからさー、嫌だと思うなら寄ってくるなよ」

「わかった!カルシウム足りないんだ」

菊田 「は?」

「カルシウム足りないとイライラするらしいよ」

堀川 「だったら牛乳飲めよ」

「ワカサギ釣り行く?」

堀川 「なんだよ、ワカサギって」

「え?知らないの?ワカサギってカルシウムの宝庫だよ」

菊田 「知らねーけど、島と行ったらイライラが増すじゃん」

「増したらさー、ワカサギ食べてプラマイゼロ!」

菊田 「プラマイゼロなら、最初から行かなきゃいい話だろ」

「じゃあさ、駅前の霧島鮮魚店にでもよって帰る?」

菊田 「霧島鮮魚店?」

「カルシウムと言ったら魚でしょ!」

菊田 「だからってなんで島と魚買いに行くんだよ」

「僕って優しいから、困ったヤツをほっとけないんだよね」

菊田 「俺は全然困ってないから」

堀川 「青春だよなー!親友の絆がいいよー!いい!」

菊田 「だから親友でもなければ友達でもないよ」

「堀川も一緒に行く?」

堀川 「いや、俺はいいや。二人の邪魔するのも悪いしさ」

「オッケー、じゃあ僕たち二人で行ってくるよ」

菊田 「オッケーじゃねーよ、俺は行かねーよ」

菊田、背を向ける。

「で、どうしたんだよ?」

堀川 「あ、そうそう!駅前にカフェができたの知ってる?」

「週末、菊田と行ったよ。なあ?」

堀川 「やっぱ親友なんじゃん」

菊田 「たまたまそうなっただけだよ」

堀川 「たまたまねー」

菊田 「たまたまってか、無理やり連れていかれたんだよ」

「なにそれ」

菊田 「とにかく、俺のことほっといてくれよ」

「わかった、ほっとく。堀川それで?」

堀川 「カウンターの中にいる髪の毛がこんなに(腰の手をあて)長くて、すっげー可愛い子見た?桜ヶ丘女子の子なんだけどさ」

「知ってる!桜ヶ丘なんだ」

堀川 「綾ちゃんていうんだけど、その綾ちゃんが・・・(綾の真似)聖東学院の超イケメンが青のペンケースを忘れて帰っちゃったの。綾、もう一度会いたいな・・・だってさ!もうさ、誰だよ!俺の綾ちゃの心を奪ったヤツ。よりによって、うちの学校だって言うだろ。うちの学校にイケメンなんていたかよ」

「青のペンケース?」

堀川 「ああ」

菊田 「(イケメン風に)・・・マジか」

堀川 「え?」

「いや、違う」

菊田 「堀川・・・」

堀川 「ん?」

菊田 「悪いな」

堀川 「何が?」

「何かの間違いだって」

菊田 「(窓から空を見上げる)すっかり秋の空だな」

「え?キャラ変わってない?」

佐々木 (高2)、教室に入ってくる。

佐々木 「おはよ」

佐々木、机の中を覗く。

佐々木 「あれ?やっぱないよ!」

堀川 「何がない?」

佐々木 「ペンケース」

「佐々木も?」

佐々木 「ん?」

堀川 「一応聞くが・・・何色?」

佐々木 「は?」

菊田 「色だよ!色!」

佐々木 「あー、青だけど」

堀川 「佐々木だったのかよ!あーこんなに近くにいたのかー」

「堀川、冷静に」

堀川 「冷静になれるかよ、こんな状況で」

「一旦、一旦でいいから冷静に」

堀川 「だから、こんな状況でなれるわけねーだろ」

「とにかく、まずは一旦・・・3秒後にその怒りが倍になる」

佐々木 「どういうことだよ?」

「菊田も青いペンケースをなくしたらしい」

堀川 「それ以上言うな!」

佐々木 「青いペンケース、何かあるの?」

「あのさ、佐々木は駅前のカフェ知ってる?」

菊田 「知らないよな。佐々木には関係ないって」

佐々木 「知ってるよ。金曜日に行った。あっ、あそこで忘れたのかな?」

菊田 「行ったのかよ」

堀川 「で、どっちだよ」

菊田 「決まってるだろ」

堀川 「とにかく!」

堀川、立ち上がる。

堀川 「とにかく、今わかってることをまとめる」

佐々木 「はい。よくわかりませんが」

堀川 「青いペンケースを失くしたのは、菊田と佐々木」

菊田 「(イケメン風に)・・・答えは決まってるさ」

「だから、誰なんだって、そのキャラ」

堀川 「とりあえず、ほっとけ」

「だね」

堀川 「そして、その中でイケメンは・・・いない」

菊田 「真実に目を背けるな」

「百歩譲ったとして、佐々木だよな」

佐々木 「いや、僕は・・・」

菊田 「ないよなー」

堀川 「菊田!佐々木のこの謙虚さを見習え」

「だいじょうぶ。千歩譲ったとしても菊田はイケメンではない」

菊田 「一万歩譲ったら?」

堀川 「一万歩譲られてイケメンになって嬉しいか?」

菊田 「(イケメン風に)男のひがみってヤツか。・・・醜いな」

堀川 「あー、こうなったら佐々木であってほしい」

「同じく」

大林 (高2)、教室に入ってくる。

大林 「ニュース!ニュース!」

堀川 「ニュース?」

大林 「駅前のカフェで・・・」

「知ってる知ってる」

大林 「綾ちゃん、彼氏ができてしまった」

堀川 「彼氏ができた?」

菊田 「どういうこと?」

大林 「青いペンケースを忘れていったイケメンがいてさ」

堀川 「この学校のイケメンだろ?」

大林 「そうそう、昨日取りに来たらしいよ。で、そのまま綾ちゃんから告ったって」

菊田 「誰だよ、そいつ」

大林 「B組の渡辺」

堀川 「渡辺?まあ・・・確かにイケメンだよな」

「十歩ほど譲ればね」

大林 「なんだよ、それ」

「でも、なんか菊田じゃなくて妙に嬉しい」

堀川 「俺も」

菊田 「俺じゃなきゃいいってのかよ」

「まあ、そういうこと」

大林 「え?菊田がどうかした?」

菊田 「なんでもない。あーイライラする」

堀川 「だから、牛乳でも飲んどけ」

菊田 「いや、ここはワカサギ釣りでも行くか」

「無理、ワカサギは冬なんだよ」

菊田 「だったら誘うなよ」

「もしかして、本気にした?」

菊田 「やっぱ、ムカツク!」

佐々木 「ワカサギだったら一年中釣れますよ」

「え?氷に穴をあけて釣るんじゃないの?」

佐々木 「冬はそれしますけど、年中釣れますよ」

菊田 「季節関係ねーのかよ」

堀川 「ワカサギにも逃げられた感が最高だよ」

菊田 「じゃあ、魚買って帰る?」

「行かないよ!」

大林 「魚っていえば、駅前の霧島鮮魚店のバイトの子も可愛いいよな」

堀川 「え?マジ?」

大林 「マジマジ。綾ちゃん以上」

菊田 「やっぱ行っとく?」

「行く。僕もカルシウム足りないみたいだから」

堀川 「あ、俺もサンマを買うように頼まれてた」